導入
謝辞とか
- 分散SNS関連年表を公開してから2周年となった。この文章はこれを記念し、分散SNS関連年表について、公開するまでの経緯やこれまで更新してきて考えたこと、これからどうしていくかを改めて言語化したものである。
- 年表をみてくださった皆、これまで意見をくださった皆にまずは感謝したい。
- 正直にいえば、更新をはじめてから2年経ったことには、驚きしかない。
- しかし、思い返してみれば、2年の間にいろいろな出来事があった。
- 年表を公開したのはちょうどTwitterをイーロン・マスクが買収した時期で、マストドンブーム以来、ひさしぶりにマストドンに注目が集まっていた頃だった。
- これを読んでくださっている方にはおなじみの通り、2023年はfediverseにとって激動の年となった。イーロン・マスクによるツイッター買収以前と以後とでは、fediverseの風景が大きく変わってしまうほどだった。
- これまで更新を続けてこられたのは、こうした時期とちょうど重なっていたからかもしれない。イベントがなければ書くことがないし、書くことがなければ更新することもなかっただろう。
- 以下、第一部では分散SNS関連年表を公開することになった経緯について書いている。そこで言及した人々に、感謝の意を示したい。
- 年表が作成された経緯は、 年表ページでは直接語っていない。しかし、先人の活動がなければ、いまあるこのような形で年表は成立しなかった。
- 改めて経緯について説明することで、こうした感謝の気持ちを表現したつもりである。
- また、年表を作成するうえで参考にしたすべてのものに感謝している。
- 年表ページの下の「参考」欄は、とくに年表を作成するにあたって参考にしたものを挙げている。この「年表を作成するにあたって」とは、直接記述の参考にしたという意味である。しかし、それと同時に、年表のなかで表現されている、私自身の歴史観を構築するために参考にした、という意味でもある。
- 個別の項目ごとに参考にしたページや投稿は、できごとの文中に直接リンクを貼ることで参考にしたことを示している。「参考」欄は、そのようにして文中に直接リンクを貼ることはできないが、実際に参考にしたページや書籍を示している。
- 感謝したい対象は挙げればきりがないし、感謝し切れるものではない。あえて言うなら、すべてのものに感謝をしたい。
全体の構造
- この文章は、3部構成となっている。
- 第一部は、分散SNS関連年表が書かれることになった経緯と、それが生まれた動機について、改めて説明した章となっている。
- 分散SNS関連年表の前史として、「CJ_KKGB」というプロジェクトについて特に言及している。このプロジェクトの存在と、年表との連続性について、実はこれまで明らかにしてこなかった。「CJ_KKGB」と分散SNS関連年表の連続性をみることで、分散SNS関連年表がなぜこのようなものになったのか、理由が実感できるだろう。
- 第二部は、年表について、より抽象的な視点から想いを綴った章となっている。
- 分散SNS関連年表もふくめ、年表というものにたいして、どんな感覚を持っているのかを素直に綴ったつもりだ。だが、それもあって、読む人によっては共感できないと感じる人もいるかもしれない。抽象的な話をしているので、興味のない方は読み飛ばしてもらっても構わない。
- 第三部は、分散SNS関連年表を公開して以降に更新してきたなかで特筆すべき変更点をあげ、簡単に振り返った後で、今後の展望について語った章となっている。
- と、いうわけで、これまでの分散SNS関連年表の軌跡を振り返り、今後の展望を語っていくことにする。
第一部 年表ができるまで
公開するまで
- 分散SNS関連年表は、2022年12月03日に「分散SNS年表」として公開されたところから歩みをはじめている。
- ページ末に書いてあるとおり、「ウエハース Advent Calendar 2022」の3日目の記事として書いたものである。
- 「ウエハース Advent Calendar 2022」とは、fediverseユーザーの一人である蝉暮せせせが一時期スクリーンネームを「ウエハース*1」としていたことで、蝉暮せせせが「その場のノリ」で作成したアドベントカレンダーだった。
- 参加したメンバーを見返すと分かるが、当時分散SNSでゆるく繋がりあっていたユーザーが参加しており、タイトルも含めて内輪ネタの雰囲気が強い。これは実は「分散SNS年表」の内容にも反映されているが、後ほどそれは解説する。
- もう少し経緯と文脈を説明しよう。
- 蝉暮せせせは2019年6月30日にdiscordサーバー「いい音楽」を作成しており、2022年には「いい音楽 Advent Calendar 2022」も作成していた。
- 「ウエハース Advent Calendar 2022」のほうが「いい音楽 Advent Calendar 2022」より参加人数が多いのだが、どちらのアドベントカレンダーにも「いい音楽」discordサーバー参加者が参加していた。
なぜ「分散SNS」の「年表」なのか
- 筆者である私、yuinoidには、「分散SNS年表」を作成する動機が主に二種類あった。その名の通り、「分散SNS」と「年表」についてである。
- 動機としての「分散SNS」について語ろうとすると、どうしても「内輪」について語らざるをえない。もう少し、その点について語っていく。
「分散SNS」である動機
- Internet ArchiveのWayback Machineに残っている初期の年表をみるとわかるが、当時の内容は主に2017年のいわゆる「マストドンブーム」を起点とした歴史観にもとづいて語られている。
- これは現在の年表にも変わらず反映されているが、とくに公開後の初期の内容はmastodon.cloudやmstdn.jpに関する記述が多いことわかる。以前書いたことでもあるのだが、これは私自身の個人史的な観点が露骨に反映されているということだ。
- 私はマストドンブームの渦中でmastodon.cloudにアカウントを作成し、その後にmstdn.jpやmisskey.xyzなどへ、主たる活動の場を移した。
- 正直に言えば、「ウエハース Advent Calendar 2022」を年表の発表媒体としたのは、私自身の分散SNSでの歴史を回顧したかったということであり、そしてそれは、「ウエハース」からもわかるとおり、共通の文脈を理解している人々へ向けた一種のジョークだった。
- 「共通の文脈」というのは、マストドンブームを経験したユーザーに対する目配せのことだ。しかし、それ以上に、自分が活動してきたmastodon.cloudやmstdn.jp、misskey.ioなどでの、ごくローカルなできごとを知っている人々に対する目配せでもあった。そしてさらにいえば、ローカルな文脈を語ろうとしてきた人々への目配せでもあった。
- なぜこの時期に、こうした形で「分散SNS年表」が書かれることになったのか。
- それはつまり、これまでの分散SNSでの経験をうまくまとめたいという気持ちが以前からあり、「ウエハース Advent Calendar 2022」をいい機会と考えて作成をはじめた、ということにほかならない。
- そして、実は、分散SNSの、とくにmasotodon.cloudの歴史を振り返ろうとしたことは、2022年12月以前に一度あった。実はこれが分散SNS関連年表を成り立たせるきっかけの一つだったのだ。
- 2018年3月29日、蝉暮せせせがdiscordサーバー「CJ_KKGB」を作成したことがそのきっかけである。「CJ_KKGB」とは、クラウド女学院考古学部を意味する。
- クラウド女学院とは、マストドンブームの喧騒を経て自然発生的に生まれたmastodon.cloud上のコミュニティだ。
- KKGBとは、クラウド女学院上に存在したアングラコミュニティである早朝学部(「SCGB」と記述された)を意識して名付けられたものであり、クラウド女学院を中心に、マストドンブーム初期の歴史を振り返ろうとしたことがその名の由来だった。
- 「CJ_KKGB」は「早朝学部」としての目線から、トゥート単位でクラウド女学院の歴史を振り返ろうとした。スクリーンショットを持ち寄ったり、めいめいによるツール「mstpubapi」を使いmasotodon.cloudの初期LTLを振り返ったりして歴史叙述しようとした。しかし、その活動は始動一日にして頓挫する。
- 頓挫した理由は主に2つあった。ひとつは参加人数が少なかったこと、そしてふたつめは、単純にやる気が続かなかったことだった。
- 歴史を振り返るのはいいが、スクリーンショットを持ち寄っても、具体的に歴史叙述するには限界があった。そして、単純に史料となる情報がこのときすでに欠落し、アクセスが困難だったということもあった。
- これは、当時masotodon.cloudの管理人だったValentin_NCがサーバーの管理を放棄しており、この時期、データベースの不具合やサーバーの負荷が積み重なって、サーバーが不安定だったことによる。
- 実際、2018年3月31日には避難所としてmostodon.cloudが開設されており、また、私を含めクラウド女学院生のいくつかのアカウントはmstdn.jpやpawoo.netに活動の場を移していた。そして実は、サーバーが不安定だったことが、クラウド女学院の歴史を残そうという動機をもたらし、KKGBが作成されたという側面もあった。
- KKGBは、mostodon.cloudを中心とした当時の「クラウド女学院」コミュニティ本体ではなく、主にmstdn.jpへ移動した一派によって作成されたものだった。参加メンバーの絶対数が少なく、そしてSCGBも含めて、これまで全体の文脈とモチベーションを理解している人が少なかったことが、KKGBというプロジェクトの頓挫に大きな影響を与えたのは間違いない。
- KKGBの頓挫から、いくつかの教訓がえられた。マストドンブームを記録していたブログに、friends.nicoのユーザーだったLLxyoがtumblrで作成していた「マストドンログ日記」というものがあった。
- 「マストドンログ日記」は名前の通り、日記形式でリアルタイムにできごとを記録していた。
- KKGBは「クラウド女学院」ムーブメントが過ぎ去ったあとで、手元に残った記録をもとに歴史を語ろうとした。しかしそこには、これまで語った通りの困難があった。
- 歴史の記録には「リアルタイム性」、その時その時に、後の世に残していくという意思が必要だ。KKGBが頓挫したすぐ後だったか、KKGB参加メンバーの間で「マストドンログ日記」に言及して、この点を反省したのを覚えている。
- 歴史は、こうした記録をへて、記録をもって歴史を物語っていくことで紡がれていく一種のストーリーなのだ。
- 初めに公開した「分散SNS年表」は、もちろんリアルタイムで自分自身が記録した情報のみが使われているわけではない。これまで継続して更新してきたモチベーションには、KKGBの頓挫に対する反省があった。
- できごと単位で断片的に歴史の流れを表現できる年表という形式を選んだのも、KKGBの反省から選んだという側面がなかったわけではない。
- KKGBで集めた当時の情報は「分散SNS年表」作成時に参照している。ここまで書いてきたことから分かる通り、「分散SNS年表」はKKGBの意思を継いだプロジェクトともいえるのだ。
- 話から外れるが、discordサーバー「いい音楽」まで続く、クラウド女学院残党で無数にdiscordサーバーやmisskeyサーバーなど、ユーザーが集う場をつくっていく、という流れは、こうしたディアスポラの経験の中で生まれてきたものだった。メインのサーバーが不安定だったことで、一部クラウド女学院生残党に、拠点とする場所を移動し、また自分自身で用意するという「遊牧民」性が生まれた *2。これは分散SNS的なありようそのものでもある。
- もちろん、これは集ったユーザーが持っていたもともとの性格によるところはある。「クラウド女学院」形成の過程で選択され、さらにそこから逸脱したユーザーの傾向として、そういった「遊牧民」性がそもそもあったともいえるだろう。また、「遊牧民」性があったから逸脱した、という言い方もできるだろう。
- そもそも、2017年のマストドンブームで新興SNSであるマストドンにアカウントを作成した人々は、そうでない人々と比べてはるかに「遊牧民」的であるはずだ。
- 実際のところ、外部的要因と内部的要因のダイナミックな相互作用によってこうした傾向の強いクラスタが形成された、というほうが正しいのかもしれない。
- しかし、こうした複雑な経緯のなかに、ディアスポラの経験が反映されていることもまた事実だろう。
- そして、こういった強い「遊牧民」性は、もともとmastodonを拠点にしていたクラウド女学院の一部残党が、2018年4月8日にActivityPubに対応し分散SNSとなったmisskeyに流れ着く素地となった。
- 序盤に「ウエハース Advent Calendar 2022」と蝉暮せせせについて語ったのは、こうした非常に狭い世界についての文脈を説明したかったからである。
- 話が複雑になってしまったのでまとめよう。
- 「分散SNS年表」は、「クラウド女学院」等の内輪の歴史を改めてまとめようという動機から生まれた。そうした動機が生まれたのは、KKGBというプロジェクトがかつてあり、それが頓挫したという歴史があったからだった。
- 「分散SNS年表」は、KKGBプロジェクト関係者が気まぐれにAdvent Calendarを作成したために、KKGBを意識して作成された。そのため年表の内容はそうした経緯を反映し、内輪ネタの歴史を記録したものとなった。